3月は左遷の季節でもあります。菅原道真(すがわらのみちざね)が左遷されて京都を離れたのは旧暦の2月1日、梅の時期でした。
「君が住むやどの梢をゆくゆくと…」という、その時の和歌があります。「君」は妻です。
その妻が残って住む家の場所は、道真には遠くからでもわかります。高い木が目印です。その梢が振り返るたびにだんだんと小さくなっていきます。ついに隠れてみえなくなるまで、道真は何度も何度も振り返って確かめたのです。
道真は左遷の2年後に大宰府で死んでいるので、これが永久の別れになりました。この、旅立ちのときに詠んだ歌を妻が知るのは数か月先になります。左遷先の大宰府から便りが届いた時です。受け取った妻の気持ちはいかばかりだったでしょう?
「東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花…」も、道真が同じ時に詠んだ歌です。